模倣困難性の競争優位性の分析 医薬品特許vs革新的組織文化【解答例】ーバーニーの企業戦略論 上 第3章チャレンジ問題3.3

企業戦略論

MBAの授業でよく参考書として取り上げられているジェイ・B・バーニーの『企業戦略論 上 基本編』のチャレンジ問題・演習問題を考えてみたいと思います。

今回は、企業戦略論 上 第3章チャレンジ問題3.3を取り上げています。

第3章 内部環境の分析 チャレンジ問題3.3

ある製薬会社にとって、最近リリースして大ヒットを記録した医薬品と、高いパフォーマンスと革新のカルチャーを生み出してきた人的資源管理方法とでは、どちらのほうが持続的競争優位を保つうえで重要か。

出所:ジェイ・B・バーニー企業戦略論 上 基本編

解答例

高いパフォーマンスと革新のカルチャーを生み出してきた人的資源管理方法のほうが、重要と考えます。

本考察では、VRIOフレームワークのうち、特に模倣困難性について焦点を当てて、以下の観点を確認をしていきます。

  • 競争優位性
  • 模倣の形態(直接的複製・代替)ごとの模倣コスト
  • 優位性の持続期間
模倣困難性に対する問い

競争優位性

大ヒットを記録した医薬品

競争優位の源泉は、大きな売上をあげる医薬品であり、模倣困難性を高めている要因としては、特許による保護が考えられます。

医薬品は特許の保護は、出願から20年間という長期にわたります。また、国の審査等により特許の存続期間の侵食があるため、最大で5年間の延長が認められます。

人的資源管理方法

競争優位の源泉は、高いパフォーマンスと革新のカルチャーを生み出してきた人的管理方法であり、模倣困難性を高めている要因としては、社会的複雑性があげられます。

競合の模倣の形態とそれにかかるコスト

大ヒットを記録した医薬品

直接的な複製

特許により保護されているため直接的に複製をすることは不可能と考えられます。

ただし、医薬品では、ライセンス契約を結び、特許使用料を払うことで、その技術を利用できる可能性もありますので、その場合は、模倣コストは高い、という状況と考えられます。

代替

本医薬品が提供する症状を改善する性能を、別の医薬品あるいは、処置方法などで解消する代替が考えられます。

ですが、一般的に医薬品の研究開発費は莫大なコストがかかります。また、医薬品以外の処置での代替するには限界があり、代替は難しいでしょう。

イメージとしては、例えば、高血圧に対応し血圧を下げる医薬品を代替するために、血流をよくする体操であったり、生活習慣を取り入れるための相談サービスなどを提供することが、代替の手段と言えるでしょうが、医薬品ほどの効果は見いだせないと思われるので、代替は難しいと考えています。

人的資源管理方法

直接的な複製

高パフォーマンスや革新的なカルチャーなどは、企業内部の複雑な社会現象に起因するため、そのまま自社に構築しようとしても、外部からその要素を観察することは非常に難しく、また文化そのものの情勢には長期的な時間も必要であることから、直接的な複製は現実的には不可能と考えられます。

代替

高パフォーマンスな人材や革新的な人材を採用して、内部に取り入れることが代替の手法として考えられます。

しかし、革新的な数名の人材を採用したとしても、組織文化の違いから自社になじめない可能性があり、大量の人数を採用する必要があるかもしれないこと、そのような人材が自社で活躍するために社内の体制やルールを変更していく必要があるなど、採用に関連するコストがかかります。

優位性の持続期間

大ヒットを記録した医薬品

特許の期間は20年+5年と長期的であるものの、時限です。

また、特許期間の終了後は、一般的にジェネリック医薬品と呼ばれる安価な類似品が出回ることになり、優位性はなくなると考えられます。

人的資源管理方法

人的資源管理の方法は長期的に継続するものと考えられます。

企業文化などは創業からこれまでに積み上げてきたものであり、企業経営の悪化や組織の混乱等による大幅な組織体制の変更などがなければ、長期的に維持・発展していくことが想定されます。

戦略、製品・サービスなどあらゆるものが経年で陳腐化してきますが、今回のケースでは「革新のカルチャー」とあるように新しいものごとを取り入れていく人材を育てていくことができているため、時代の流れに取り残されていく可能性は低いのではないかと考えます。

思考の軌跡

経済価値や稀少性についての議論は、これだけの情報では比較が難しいため、今回は模倣困難性に焦点を当てて考察をすることにしました。

模倣コストを高める要因としては、それぞれ特許と社会複雑性が該当する形となり、模倣の形態ごとにどれくらいのコストがかかるかを考察しました。

模倣困難性の特徴では同じような程度であったため、最後には持続的という観点での考察を加えました。特許は25年と非常に長期ですが、企業文化については、企業活動が継続する限り維持・発展されるものと考え、わずかに優位としました。

企業文化の維持の方が、特許の保持期間より短いという考えもあるとは思います。

今回は、ここまで~。最後まで読んでいただいた方、ありがとうございます。

参考情報

今回のチャレンジ問題や演習問題、またその内容はこちらの書籍にまとめられております。

本サイトで配信している学びに関する情報の全体像は以下の記事でまとめています。

また、本記事の画像はPowerPointで作成しており、操作の解説記事・講座もありますので、興味のある人はご覧ください。

参考文献

企業戦略論 上 基本編

経営戦略とリーダーシップスタイルとの関係(2011年;楊 薈聰、青木 良三)
https://scholar.google.co.jp/scholar?hl=ja&as_sdt=0%2C5&q=%E3%82%B3%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%83%E3%83%97%E6%88%A6%E7%95%A5%E4%BA%8B%E4%BE%8B&oq=%E3%82%B3%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%83%E3%83%97

農産物市場における製品差別化に関する一考察(1994年;荒幡 克己)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jfsr1994/5/1/5_1_2/_pdf

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