戦略策定アプローチで、外部環境と内部環境をいずれを優先すべきか【解答例】ーバーニーの企業戦略論 上 第3章チャレンジ問題3.1ー

企業戦略論

MBAの授業でよく参考書として取り上げられているジェイ・B・バーニーの『企業戦略論 上 基本編』のチャレンジ問題・演習問題を考えてみたいと思います。

今回は、企業戦略論 上 第3章チャレンジ問題3.1を取り上げています。

第3章 内部環境の分析 チャレンジ問題3.1

戦略立案に対する次の2つのアプローチのうち、どちらのほうが経済的利益につながる可能性が高いか。

(a) 外部環境における機会や脅威を分析し、そうした機会を利用したり脅威を無力化するための経営資源やケイパビリティを確保する。

(b) 内部環境における経営資源やケイパビリティを分析し、それをどの業界で生かせるかを模索する。

出所:ジェイ・B・バーニー『企業戦略論 上 基本編

解答例

(b)を選択する。

ポーターのポジショニング論とバーニーのケイパビリティ論のいずれが持続的な競争優位の構築への寄与度が高いかという問いへと読み替えて解答を考えます。

ポジショニング論について

ポジショニング論は、SCPモデルに表されるように、産業構造が企業行動を規定し、パフォーマンスにつながるという考えであり、業界内でのポジショニングを重視しています。

また、企業が自らの行動により、産業内部で自社が直面する産業構造を主体的に変えうることを示しています。

ケイパビリティ論について

一方で、ケイパビリティについての競争優位に重要なのは、ポジショニングよりも、企業の持つ経営資源をどのように活用するかというリソース・ベースト・ビュー(RBV)に基づくものです。

RBVの考えでは、企業ごとに異質で複製に多額の費用がかかる経営資源(財務資本、物的資本、人的資本、組織資本)に着目しています。

>>>VRIOフレームワークとバリューチェーン分析についてはこちら

その手法として、バリューチェーン分析とVRIOフレームワークを整理します。

バリューチェーン分析

競争優位を生む可能性のある経営資源の分析に当たっては、バリューチェーン分析があります。

同一の製品群を製造する企業であっても、バリューチェーン上のどの活動に注力するかは、その企業がそれまでどのような経営資源を築いてきたかに影響を受けるためです。

また、同一のバリューチェーン上で同じ活動の組み合わせを選択したとしても、それらの企業が違う方法で取り組み、結果として全く異なる経営資源を蓄積することがありえるとされています。

VRIOフレームワーク

経営資源の分析の手法として、VRIOフレームワークがあります。

  • Value:経済価値に関する問い
    その企業の保有する経営資源やケイパビリティは、外部環境における脅威や機会に適応することを可能にするか
  • Rarity:稀少性に関する問い
    その経営資源を現在コントロールしているのは、ごく少数の企業か
  • Inimitability:模倣困難性に関する問い
    その経営資源を保有していない企業は、獲得あるいは開発する際、コスト上の不利に直面するか
  • Organization:組織に関する問い
    企業が保有する、価値があり稀少で模倣コストの大きい経営資源を活用するために、組織的な方針や手続きが整っているか

価値があり、稀少で、模倣困難な経営資源を保有し、それを活かす組織体制があることが持続的な競争優位の源泉となります。

競争優位性への寄与度の検証

ポジショニング論とケイパビリティ論のいずれが持続的な競争優位の構築への寄与度が高いかという論争については、リチャード・ルメルト(1991年)が実証研究を行っています。

その結果、企業業績の約15%が業界ごとの要素(業界構造など)=ポジショニング論の寄与、約45%が企業固有の要素(経営者の能力、保有技術など)=ケイパビリティ論によって決定されることが明らかにされました。

上記の先行研究の結果から、(b)の経営資源を重視する戦略策定方法がよいと考えました。

思考の軌跡

今回の解答では、ポジショニング論とケイパビリティ論のいずれが持続的な競争優位の構築への寄与度が高いか、という問いへと読み替えて解答をしました。

しかし、これは貢献度の割合を述べているだけで、その検討の順番に応えるものとしては十分ではないと思いましたので、以後ではより検討の順番に焦点を当てて検討を進めたいと思います。

Strategic Choice Cascade

世の中に戦略策定のためのステップ(よくある一例として、目的・定量目標の設定、現状分析、方向性の策定、フィジビリティスタディ、施策を実行)やフレームワーク(PEST、3Cなど)は数多くあるものの、外部環境分析と経営資源とケイパビリティの内部環境分析のいずれの順で実施するかの問いに応えられる情報は多く見当たりませんでした。

戦略策定のメソドロジーとして、モニターデロイト(前身のモニターグループはポーターが創設)のStrategic Choice Cascadeが確立されています。

そこでは、戦略検討プロセスとして、戦略は何を目指すかという大義(Aspiration)のもと、戦うべき市場を選び(Where to play)、どう勝ち抜くか(How to win)を検討し、そしてその勝ち抜く術を実現するためのケイパビリティとマネジメントシステムを確立する(Capability/Management system)ことが重要であると示しています。

『SDGsが問いかける経営の未来』から引用

上記の検討ステップは(a)に合致するべきものです。

外部環境の機会と脅威を評価することが、戦うべき市場を選ぶことであり、機会を活用し脅威を無力化するような経営資源とケイパビリティを開発することが、どう勝ち抜くか、新たにどんな能力を備えるか、どのようなマネジメントシステムが必要かの問い対応しています。

この検討ステップは、戦略が企業のミッション・ビジョン・バリュー(MVV)と整合するためのものであり、既存の経営資源をベースとした戦略策定をした場合、現状できることの積み上げベースでの検討を避けることにもつながると思います。

まとめ

解答例と解説では異なる検討順となりました。

しかし、いずれも相応の合理的な理由があると考えられる。読んでいただいた方の意見もぜひとも聞いてみたいところです。

今回は、ここまで~。最後まで読んでいただいた方、ありがとうございます。

参考情報

今回のチャレンジ問題や演習問題、またその内容はこちらの書籍にまとめられております。

本サイトで配信している学びに関する情報の全体像は以下の記事でまとめています。

参考文献

企業戦略論 上 基本編

モニターデロイトSDGsが問いかける経営の未来
https://www.dhbr.net/articles/-/5702?page=3

リチャード・ルメルト(1991年)『How Much Does Industry Matter?』

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