規模の経済と生産要素への差別化された低コストのアクセスの関係性【解答例】ーバーニーの企業戦略論 中 第4章チャレンジ問題4.6

企業戦略論

MBAの授業でよく参考書として取り上げられているジェイ・B・バーニーの『企業戦略論 中 事業戦略編』のチャレンジ問題・演習問題を考えてみたいと思います。

今回は、企業戦略論 中 第4章チャレンジ問題4.6を取り上げています。

第3章 コスト・リーダーシップ チャレンジ問題4.6

規模の経済と生産要素への差別化された低コストのアクセスは、いずれもコスト・リーダーシップの要因である。この2つの要因に関連性はあるか

出所:ジェイ・B・バーニー企業戦略論 中 事業戦略編

解答例

参考・コスト・リーダシップとは?コスト優位の源泉

コスト優位の源泉の5つの要素のうち、規模の経済性と生産要素への差別化された低コストのアクセスについて比較をしていきます。

コスト・リーダシップとは?
構成要素 コスト優位の源泉 

なお、コスト・リーダーシップにおけるコスト優位の源泉については、チャレンジ問題4.4にて、まとめているのでそちらをご覧ください。

規模の経済性を有する企業

一般的に、規模の経済性を獲得している企業は、累積生産量が多いことなどから業界のリーダー企業のポジションであり、高いマーケットシェア、業界内での評判を持つ企業であると考えられます。

以下では、その前提で考察を進めていきます。

生産要素への差別化された低コストのアクセス

生産要素としては、労働力、資本、土地、原材料などがあり、これらに対して差別化された低コストのアクセスを持つ企業は、競合他社に比べて経済的コストが低くなるとされています。

2つの要素の関連性への考察

企業が、いずれかの要素を持つ場合、もう一方の要素を獲得するか、という因果の関係について考えてみたいと思います。

命題は「企業が規模の経済性を獲得している場合、生産要素への差別化された低コストのアクセスも獲得する」です。

命題の逆は「企業が、いずれかの生産要素の低コストへのアクセスを獲得している場合、規模の経済性も獲得する」です。

「規模の経済性」と「生産要素への差別化された低コストのアクセス」の関連性

結論としては、命題は真であり、命題の逆は偽と考えます。以下でその理由をまとめています。

規模の経済性⇒生産要素への差別化された低コストのアクセス

命題の「企業が規模の経済性を獲得している場合、生産要素への差別化された低コストのアクセスも獲得する」を考えてみます。

労働力の場合

人材は、経営企画や営業などの事務的な人材や、製造に従事する人材などがあると考えられます。

いずれにせよ、リーダー企業というポジション、その知名度や評判などが、生産要素(労働力)への差別化された低コストへのアクセスにつながると考えることができます。

例えば、商社業界のことをよく知らない優秀な学生でも、三菱商事は給料がよくてかっこいいというイメージを持つことで、応募につながるなどです。知名度の低い企業と比較して、いい人材を採用できる可能性が高いと考えられます。

資本の場合

リーダー企業は、マーケットシェアを維持するために多くの投資を行っていますが、それらの原資は企業活動で得られた利益や、株主からの出資、銀行借入などが考えられます。

いずれにせよ、リーダー企業というポジション、その知名度や評判などが、生産要素(資本)への差別化された低コストへのアクセスにつながると考えることができます。

例えば、個人の投資家は、よく目にする広告や有名な商品に接することで特定の企業へ親近感を持ち投資をするかもしれません。また、お金を貸す銀行は、案件の規模の観点から中小企業向け融資よりも大規模な融資案件に力を入れていると考えられます。

土地(工場)の場合

規模の経済性に重要な大規模な工場を設立する場合、都市計画法などの規制も影響することから、自治体との連携が必要になることも想定されます。

一方で、自治体からすると、工場設立により地域の雇用や経済の活性化などにつながると考えられることから、大規模工場の誘致に力を入れており、補助金などを用意しているケースがあります。

このような補助金などを考えると、規模の経済性を獲得している場合、生産要素(土地)への差別化された低コストへのアクセスにもつながると考えることができます。

例えば、シャープの亀山工場の誘致では、三重県から最大で90億円の補助金が提案されたとあります。(鹿嶋 2010年:三重県亀山市における 液晶企業の誘致と都市の変容)

原材料の場合

規模の経済性を獲得している場合、大規模な工場で、大規模に生産をしていることが想定されますが、その場合、大量の原材料が必要となります。

供給企業の観点では、取引コストを下げるという意味で、大口の顧客や、取引の継続性が重要になります。そのため、仕入れ価格は量が多くなればその分、契約期間が長期に渡ればその分、安い価格で手に入れることができます(ボリュームディスカウント)。

規模の経済性を獲得(ボリュームディスカウントが得られる)している場合、生産要素(原材料)への差別化された低コストへのアクセスにつながると考えることができます。

生産要素への差別化された低コストのアクセス⇒規模の経済性

一方で、命題の逆の「企業が、いずれかの生産要素の低コストへのアクセスを獲得している場合、規模の経済性も獲得する」を考えてみます。

労働力、資本、土地、原材料などのいずれの生産要素であれ、それらを獲得している企業が規模の経済性を獲得するかは、企業のポジション・戦略によると考えられます。

なぜなら、生産要素へのアクセスが差別化されている場合、差別化の程度にもよりますが、それ自体が競争優位の源泉となる差別化戦略の一環ととらえることができるためです。

  • 生産要素の低コストへのアクセスを獲得している企業がリーダー企業の場合
    リーダー企業は、市場のシェアの拡大、維持を志向しています。そのため、規模の経済性を目指すことも考えられます。
  • 生産要素の低コストへのアクセスを獲得している企業がフォロワー企業の場合
    フォロワー企業は、リーダー企業が採用するコスト・リーダーシップ戦略と同じ土俵で戦うことが難しいため、現在保有している生産要素の低コストへのアクセスをさらなる競争優位性として発展させる、あるいは競争優位性を維持するための活動をとることが考えられます。

思考の軌跡

コスト優位の源泉の5つの要素のうち、規模の経済性と生産要素への差別化された低コストのアクセスの関連性について考察をしました。

関連性といったときに、相関関係や因果関係など様々な関係性があると考えましたが、相関関係については、おそらく成り立つと考えたので、今回は因果の関係に焦点を当てました。

また、規模の経済性を有する企業はリーダー企業との前提を置きましたが、必ずしもそうでないケースもあるかもしれないので、その場合は別途考察が必要かもしれません。

今回は、ここまで~。最後まで読んでいただいた方、ありがとうございます。

参考情報

今回のチャレンジ問題や演習問題、またその内容はこちらの書籍にまとめられております。

本サイトで配信している学びに関する情報の全体像は以下の記事でまとめています。

また、本記事の画像はPowerPointで作成しており、操作の解説記事・講座もありますので、興味のある人はご覧ください。

参考文献

企業戦略論 中 事業戦略編

ゼミナールマーケティング入門 第2版

三重県亀山市における 液晶企業の誘致と都市の変容
https://kumadai.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=24876&item_no=1&attribute_id=21&file_no=1

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